「一見難しそうだけど実は簡単な問題」 の見本のような相談だったので、ここで本人特定できないように若干のアレンジを加えて紹介したい。
X県の製造業。業歴15年。年商4億円。粗利1億円。販管費9千万(うち減価償却1千万)、営業利益1千万円。支払利息が年600万もかかっているのに、財テクで同額相当の利益を出しているので経常利益も1千万円。業績横ばい。決算書上の総資産3億円。この中には焦げ付いて回収不能な未処理の売掛金7千万円も含まれている。会社名義の不動産は1億円(但し時価6千万相当)。会社名義の有価証券4千万円。現預金1千万円。 これに対し、負債は総額2億7千万円。うち短期借入金が1億円を占める。借入先は銀行3行。資本金1千万円。返済の遅れは今のところなし。
なんのことはない。典型的な「黒字だけど自転車操業」な体質。典型的な「実質債務超過」。
どこにでも転がっている話だ。
資金繰り悪化の主な原因は、去年、主要取引先のひとつが倒産して、7000万円回収不能になったことだ。それまでは悠々自適だった。
当の社長さんは憔悴しきっている様子。
「今月末がXデーなんです。手形、返済、給料、すべてがこの日に集中してまして、あと2500万円足りません。もう冷静な判断ができなくて、いっそのこと死んじゃおうかと・・・、いや死んではいけませんね、弁護士さんに間に入ってもらって清算の手続きをしようかと・・・」
これに対してわたしは、いつものことだけど、開口一番、
「大丈夫ですよ」
と答えた。
「ぜんぜん大丈夫。軽いほうです。理由はじっくり説明します」
こういう問題は、「応急処置」 と 「原因療法」 に分けて、問題の原因をバラバラにして分解掃除するようにして考えれば、意外とスルスルと解決方法が導き出せるものである。会社の分解掃除だ。
実行は確かに容易ではないが、解決方法を見出すこと自体は、さほど難しくない。少なくともわたしはそう感じている。
(1)応急処置について。
手形、返済、給料の3つに分けられる。
ここでは手形が一番金額が大きく(月末に1500万)、これが最大のネックだ。しかしこれは当日3時ギリギリまで粘り強く交渉することによって、たとえ資金不足でも、ジャンプや依頼返却に応じてもらうことが可能だ。(もちろんコツはいろいろあるが・・・省略)
次に返済だが、ぶっちゃけ、これが一番簡単に対処できる。短期と長期があるが、端的にいえば、どちらも勇気を出して止めちゃえばいいのだ。もちろん踏み倒せという意味ではない。遅延だ。 残り1週間もないから、だらだらと交渉している暇はない。置かれている状況にもよるが、「交渉」というよりは「報告」や「宣言」といったニュアンスで銀行に伝えてもよい。「ごめんなさい、約束の日に返済できません」と。 今後の返済プランについては、後で考えても間に合う。道は何通りもある。早まってはいけない。
三つ目に給料だが、これはできれば優先してあげたいが、事態が事態なので、社員に事情を話して、少しくらい待ってもらうほうがいいかもしれない。本来なら銀行の返済以上に優先すべきだが、会社の窮状を認識してもらうためにも、一度くらいは敢えて遅配してみるのもいいかもしれない。
最後にちょっと視点を変えて、資金調達の方法も考えてみる。同社は有価証券と売掛金を結構持っている。これを担保に資金調達するという手もあるにはある。うまく今月中に調達できれば、上の3つの問題は一気に解消だ。
以上の4つを実行してみて、最大限ベストを尽くしてもダメだったら、最悪、手形の不渡りも視野に入れる。不渡りは倒産ではない。その先には別のステージがある。 もちろん、できれば不渡りは避けたいが(避ける方法もいっぱいあるが)、どうにもならない場合は1度くらいの不渡りは仕方ない。不渡りを出したら出したで、そのことを逆手にとって起死回生を計る方法(詳細省略)も残されている。
以上が応急処置。
(2)原因療法について。
B/S,P/L,(あとC/F)、各項目別に分解して問題点を洗い出してみる。もちろんすべて実態ベースの時価換算。
同社の場合、業績は横ばいで安定している。売上高、売上総利益までは問題ないと言って良い。営業利益のほうも、聞けば可能な限りのコスト削減に常日頃から努めていて、その結果、1千万円の営業利益(+減価償却費1千万)が出ている。気になるのは営業外の投資活動だ。はたして資金も人でも限られている中小企業が営業外の投資活動に余計なエネルギーを費やして良いのだろうか?たまたま直近では年間の銀行への支払利息と同額程度の利益が出たおかげで営業利益と経常利益が同額を確保でき一見良さそうではあるが、後述するように、資金繰りの足を引っ張っていないだろうか?
B/Sのほうを見ると、回収不能な売掛や価値が下落した不動産などを時価ベースに換算すると、ざっと見て、8千万円か9千万円の実質債務超過に見受けられる。これを正攻法で本業の稼ぎだけでコツコツ解消しようとすると、単純計算で最短6年か7年はかかりそうだ。でも、慌てて破産や民事再生をかけるほどの深刻な内容ではない。それどころか私的整理さえも必要ないかもしれない。
それよりも重要なのは「流動比率」「当座比率」の改善だ。同社は現預金が月商の1/3もない。いくらなんでも少な過ぎる。また、商品在庫や仕掛品を必要以上に抱え過ぎている。それに、キャッシュが少ないにもかかわらず、有価証券を持ち過ぎている(なんと時価4千万円分も!) このへんを改善すれば、資金繰りは目に見えて楽になる。(ちなみにこの有価証券は現金化するのに1ヶ月以上かかるうえ、利益が出続けているのでなかなか踏ん切りがつかなかった模様・・・)
こんなのはちっとも難しい問題ではない。別にわたしじゃなくても、ちょっとした財務分析ができる人なら、商工会の相談員でも診断士の先生でも顧問税理士さんでも、誰でも同様の答えが導き出せると思う。(できますよね?)
この程度のことなら、法律家の出番は必要ない。(法律家の出番は、もっともっと末期症状に陥ってからだ!)
倒産回避の方法を「リストラ型」「リスケジュール型」「私的整理型」「法的整理型」の4つに分類するなら、後者に行けば行くほど、代理人を立てたり裁判所を利用したりする出番が増えるので、弁護士の出番となる。 しかし、前者は「法律」ではなく「経営・会計」の分野に属するので、ゴッチャにしてはいけない。同社は「財務リストラ」と「リスケジュール」の併用だけで、ほぼ解決できると思う。法律の出る幕は、ない。
何でもかんでも法律的に解決しようと考えるのは間違っている。それはちょうど、病気にかかった人が「手術」で治すか、それとも「薬」で治すかの違いに似ている。外科と内科。同社の場合、外科手術は必要ないと思う。なんでもかんでもいたずらにメスで切り刻むのは、かえって良くないと思う。
ざっとこんなアドバイスをさせてもらった。
(日曜日で時間があったので、じっくり3時間半も相談に乗った)
よく理解してもらえたようで、かなり元気になって帰ってもらうことができた。
ほかにも、このままでは7年かかる債務超過解消を3年以内に短縮し、かつ、一度失った信用を3年以内に取り戻して銀行に支援させることまで可能な裏技(ヒント:担保不動産の任売、不良債権処理、特損、自己資本比率)についても触れた。しかしこれはオマケのようなもので、あくまでも社長さんとしては「キャッシュフロー改善」に最大限の注意を払わないといけませんよ、そのためには有価証券の現金化や在庫の適性化などのほうが優先課題ですよ、とクギを刺した。
明日から厳しい現実が待ち受けていると思うが(さしあたって応急処置のほうが最大の正念場ですね・・・)、先が見えてくれば、我慢のしがいもあると思う。がんばってほしい。
猫
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