
もちろん、私はこういう仕事をしているので、守る方法を一通り知っています。
自分で言うのも何ですが、へたな不動産屋さんよりも詳しいと思います。
(宅建業協会のセミナーで講師をしたり、不動産会社の顧問をしたことも何度かありますしね・・・)
そして、家を守る方法があれば、それを相談者の方に惜しまずお教えしています。
思いつく限りの全ての方法を。
家の守り方は、10人いれば10通り以上あります。その人の置かれている状況によって、それはもう、かなり細分化されます。
例えば、住宅ローンの残債と家の実勢価格が同額に近くて、そこそこ安定収入があり、住宅ローン以外の債務が5000万円未満で、第三者連帯保証人もさほどついていないような場合は、個人再生手続きで解決できる可能性が高いので、法律手続きのために弁護士か司法書士を紹介します。
あるいは、家の実勢価格よりも住宅ローンの残額のほうがはるかに大きかったり、2番以下の抵当権が複数ついていたり、収入が著しく低いような場合は、家を守るためにローンを額面通り返済するのは困難かつ不合理なので、家を時価で売却(任意売却または競売)することをおすすめします。任意売却が良さそうな場合はそれ専門の信頼できる不動産会社を紹介します。(尚、このような著しいオーバーローン・債務超過の場合、法律家の先生に相談すると自己破産をよく勧められますが、必ずしも自己破産がいいとは限りません。法律手続きに頼らない解決方法もいろいろあります。選択肢は豊富です。)
売却といっても必ずしも手放すわけではありません。売却した後で買い戻したり、賃貸という形で同じ家に住ませてもらったりという守り方もあります。(セール&リースバック)
尚、売却後に残った借金(残債)は、民間金融機関からの借入ならサービサーに二束三文で債権譲渡されて「自力交渉」で大幅減額のチャンスがあります。公的機関からの借入なら二束三文での債権譲渡はまずないでしょうが代わりに超長期分割で返していくという落としどころもあります。あるいは何をやってもダメなら、最後の最後の手段として弁護士に自己破産を依頼してリセットしてもいいかもしれません。いずれにしても、最初からいきなり自己破産と決めつける必要はありません。
もっと「軽症」の場合は、このような大手術をせず、単純に、住宅ローンの「借り換え」で済む場合もあります。あるいは高齢者で収入がないけど借金もあまりなく、自宅に抵当権がついていなければ、「リバースモーゲージ」という打開策もあるでしょう。
過剰債務&多重債務で、抵当権がびっしりついていて、任意売却の協力者がいないような場合でも、守り方は数多くあります(うちの実家がかつてそうでした)。 たとえば1番抵当が銀行の事業資金で、2番抵当がサラ金、3番がヤミ金といったような場合は、まず家の実勢価格を調べてみて、実勢価格が1番抵当の残債より低いようなときは、2番抵当以下は実質的には「無剰余」(競売にかけても取り分がない状態)なので、1番の保証協会にだけ競売されないようにコツコツ返しながら、2番以下はもっとドラスティックな整理(のようなこと)をしてしまうという裏ワザもあるでしょう。
これ以上具体的な方法はここでは省略しますが、とにかくどんなややこしい状況であっても、苦労を厭わなければ、家を守る方法はいくつもあるものです。苦労を厭わなければ。
・・・でも、ひととおり家の守り方をお教えしたうえで、私はこう問いかけます。
「家を守りたい理由は何ですか?」
「持ち家を失っても、住むところは見つかりますよ。借家とか。」
「家を守るには相当なエネルギーが要ります。金も手間もかかります。いろんなことを犠牲にしなくてはなりません。それでもいいんですか?(それでもいいという覚悟ならお手伝いしますけど・・・)」
正直言って、私は「持ち家にしがみつくこと」に、強い違和感を感じることのほうが多いです。
理由は次のとおりです。
1.私の仕事は「事業再生コンサルタント」です。「不動産コンサルタント」ではありません。そこがブレてはいけないと思っています。 事業を、あるいは企業を再生させることを第一に考えた場合、家という固定資産はかえって邪魔になることがあります。なぜなら、中小零細企業は会社と個人をそう簡単には切り離すことができないのが現実で、資産が多いということは相対的に負債も多いはずだし(自己資本は大抵の場合少ないから)、固定資産が多いということは流動資産(現金など)が相対的にみて少ないから。
考えてみて下さい。企業が厳しい局面を迎えたとき、真っ先に着手すべきは「リストラ」だと思いますが、そのリストラの中で最優先されるべきものは、人員削減(ヒト)ではなく、遊休資産の処分や無駄な費用の削減(モノ・カネ)のほうです。大企業でも、経営危機に瀕すると自社ビル売却や工場売却などの資産リストラをしますよね? 中小零細企業や自営業では、社長さん個人が連帯保証していることがほとんどで、返済困難になると金融機関も真っ先に社長の自宅に目をつけてきますので、その意味で、会社の危機と個人の危機はイコールといっていいでしょう。だとすれば、社長個人の自宅も「資産リストラ」の一環としてとらえ、会社を守るために先手を打って自宅売却し、負債軽減&キャッシュフロー改善を目指すという考えがあっても当然だと思います。(尚これはひとつの「経営者責任」としてアピールすることにもつながり、債権者交渉や従業員との一体感UPにもつながります。)
家を潔く売り払ってしまえる社長さんは、その分借金も減って身軽になりやすいし、身の丈にあった生活水準にフレキシブルに変えられるから固定費を「変動化」しやすいし、キャッシュフローもむしろ回りやすい。つまり、企業の大小問わず現在最も重要とされる「変化に対応する力」がつきます。
逆に、こんな場面で家を頑なに守ろうとすると、ただでさえ資金繰りに窮しているのに「負債」と「固定資産」にがんじがらめにされて、経営に最も必要な「キャッシュフロー」が枯渇しがちですし、「変化対応」も遅くなりがちです。これじゃいつまでたっても事業再生は進みません。
極論すれば、土壇場のピンチの局面においては、「家を守ること」と「会社を守ること」は、相反することが多い。私は、自宅を売却して会社を見事に再建させた社長さんを数多く知っています。また逆に、自宅にしがみついてそれが足かせになって人の何倍も苦労した社長さんもそれ以上に多く知っています。
2.「資産」と「財産」の違い。
「資産」(しさん)とは、貨幣価値に換算できる財産のことをいいます。あなたの家は貨幣価値でいくらの価値がありますか?ローンを引いたらいくらの純資産価値がありますか?え?ない?それじゃあ資産とはいえませんね?
いっぽう「財産」(ざいさん)とは、貨幣価値に代えられない財産も含みます。「健康は財産」というように、お金に代えられない大事なものはいっぱいあるでしょう?
一番いけないのは、家(HOUSE)という資産、いや、資産かどうかさえわからないようなもののために、もっと大事な財産(健康、精神、家族、人命など)を失ってしまうことです。 (私は、家を守るためにお父さんが自殺したという遺族の方から相談を受けることがあります。何十人もあります。遺されたお子さんの心の傷は想像を絶するものがあります・・・)
3.家を守りたいというけど、「ハウス」を守りたいのか?「ホーム」を守りたいのか?「ファミリー」を守りたいのか?
多くの人が、そのへんをあまり深く考えず、ただなんとなく家(ハウス)を守りたいと妄信的に思って、そのためにいろいろなものを犠牲にしている。それは良くないと思います。「ホーム」「ファミリー」を守るために、あえて「ハウス」を捨てたほうがいい場面もあるはずです。
*参考: 辞書でHouseとHomeを引いてみたら、こんな解説がありました。
[類語]houseは人々がいっしょに住む建物としての家,が基本的な意味. いっしょに住む人々を集合的にさすこともある. homeは自分が居住している家,が基本的な意味. いっしょに住む家族も含めて家庭という感じで用いることも多い.
私は、余力があれば持ち家を守り続けて良いと思います。だけど、ローン返済もままならないほどカツカツになったり、資産価値より負債のほうがはるかに多いような場合は、その家は手放すことを真剣に考えるべきではないかと思います。
但し、これは私の基本的考えであって、例外も沢山あります。
ついつい感情移入して、家の守り方を一緒に考えてしまうことも数知れず。
(自分はマイホームなんか持ってないのにね・・・)
猫