
「法相の諮問機関「法制審議会・民法(債権関係)部会」は26日、賃貸契約の「敷金」の定義などを盛り込んだ改正要綱の原案を大筋で承認した。改正内容の骨格がほぼ固まったことになり、法務省は条文の整備作業に入る。日常生活での契約ルールを定める民法の債権分野の改正は制定以来120年間ほとんどなかったが、法相が諮問した「社会・経済の変化への対応」と「国民への分かりやすさ」の実現へ向け大きく前進することになりそうだ。」
(ソースは http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140826/trl14082620080005-n1.htm )
◆ 次に、民法のどこが大きく変わるのかを、同じく産経新聞の同日の記事から引用します。
「法相の諮問機関「法制審議会・民法(債権関係)部会」は26日、「国民に分かりやすい民法」を目指す民法改正の骨格を固めた。アパートの「敷金」返還や借金の時効など、国民にとって身近でありながら分かりにくかった契約ルールをシンプルで明快なものにしようとしている。120年ぶりの民法改正で、国民生活はどのように変わるのか。
敷金 返還義務が発生
アパートの賃貸契約が終了した際に借り主に戻ってくる「敷金」については、これまで民法上の規定がなかった。(中略)
連帯保証 個人は原則禁止
中小企業が融資を受ける際に求められる「連帯保証」。個人が保証人になることを原則的に禁止とした。ただし「貸し渋りを招く」などとする経済団体の意見を取り入れ、契約前に債務を履行する意思を表示した公正証書を作成すれば保証人になることができるようにした。さらに(1)経営者(2)株主(3)事業に従事する配偶者-はこれまで通り保証人になれる例外も認めた。(中略)
消滅時効 条件付け「5年」
未払い代金の時効については、「飲食店が1年」「医療費が3年」など職業ごとに異なる「短期消滅時効」が定められているが、これを「(未払い代金の取り立てを)できることを知ったときから5年」に統一する。(中略)
法定利率 5%から3%へ
(ソースは http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140826/trl14082621280006-n1.htm )
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以下、私の感想です。 (個人保証・連帯保証について)
1. 新聞記事を読んだ限りでは、「中小企業が融資を受ける際に」「個人が保証人になることを原則的に禁止とした」「ただし、契約前に債務を履行する意思を表示した公正証書を作成すれば保証人になることができる」「さらに(1)経営者(2)株主(3)事業に従事する配偶者-はこれまで通り保証人になれる例外も認めた。」 ・・・とあり、一昔前のような「人質体質」からのより一層の脱却は期待できそうです。
但し、すでに2006年頃から、金融機関は徐々に第三者の個人保証を取らなくなってきており、また2011年頃には金融庁も経営と関係のない第三者保証人を極力取らないよう通達を出しています。 さらには、2014年2月には経営者保証に関するガイドラインというのも運用開始されていて、このように、ここ8-9年の大きな流れとして、「経営と関係のない第三者的な個人の連帯保証人」は取られることがめっきり減っています。
よって、私の率直な感想としては、「個人が保証人になることを原則として禁止とした」 というだけでは、今までと大して変わらないんじゃないか? という気がしないでもありません。
2. 「保証人」と「連帯保証人」の違いについての議論が、抜けているのではないか!? という点が、ちょっと気になります。
まだ一部の新聞記事しか読んでいないので私が知らないだけなのかもしれませんが、「連帯」についての責任の範囲について (民法454条と前2条にある、連帯保証人は催告の抗弁権も検索の抗弁権も有しない、というやつ。つまり、「連帯」がつくと、責任の範囲が「全責任」に限りなく近くなる!)、 メスを入れてはくれないのでしょうか?
私が民法改正で最も期待したかった部分です。
ここが変更無しのままだとしたら、本当に残念です。
3. 拙著 『連帯保証人』 (ワニブックス新書 吉田猫次郎著) でも書きましたが、
中小企業の借入などで「個人保証」を提供することは、日本以外の国でも数多く行われており、特に禁止する必要はないと思うのです。 それが「ただの保証人」ならば・・・。
つまり、「検索の抗弁権」も「催告の抗弁権」も(「分別の利益」も)認められ、主債務者と連帯保証人の責任の順位がハッキリしており、主債務者が明らかに返済不能になったときだけ、責任の範囲を限定し、人道的な範囲で保証するのだったら、別に構わないと思うのです。
問題は、「ただの個人保証」 ではなく、「連帯保証」 が、あまりにも多く濫用されていることだと思うのです。
ほとんどの人が、ただの保証人と連帯保証人の違いなど知らないまま、ハンコを押してしまっています。
銀行の金銭消費貸借契約書も、文具屋で売られている法令様式の借用書も、不動産賃貸の契約書も、どれを見ても、「保証人」とは書かれていません。「連帯保証人」と書かれています。これは絶対におかしい。
「連帯」 さえつかなければ、たとえば、身内が独立するときなどに、「よし!俺もおまえを応援しているから、保証人になってやる。但し俺は貧乏だから、賃貸アパートの保証人になるのはせいぜい家賃の2-3ヶ月分相当だけだぞ。銀行借入の保証人になるのはせいぜい上限300万までだぞ!」 などと指定することも可能だと思います。
また、 「独立資金を銀行から1000万円借りるのはいいが、俺が個人保証できるのは、その借入額の元本の50%までだぞ!」 などと細かく指定することも可能だと思います。
これなら被害は最小限で済むでしょうし、被害額の予想もつきます。
しかし、これに「連帯」つき、それに何の疑問も持たないようだと、賃貸アパートの保証の範囲は「家賃」だけにとどまらず、延滞金や原状回復費用、果ては事故が起きたときの途方もない賠償金なども連帯して全額保証させられるという無限的なリスクが出てきます。銀行借入も、単なる元金の保証にとどまらない、利息や遅延損害金まで加算して、全額を連帯して保証させられるという事態になります。
こうなると、被害額の予想がつきません。自分の資力をはるかに超える、ウン千万、ウン億もの金額を請求されたという個人の方も、昔から数多くいました。
なぜここにメスを入れないのか!?
4. あまり「個人保証」の規制を強くし過ぎると、別の問題が浮上してしまう恐れがあります。たとえば、中小企業の決算書類の「信ぴょう性」です。
大企業のように、監査法人など財務諸表を細かくチェックしていれば、貸し手も財務諸表を安心して審査の材料にすることができ、ひいては保証人など要らなくなることも増えるでしょう。 (ちなみに上場企業では、社長が借入金の保証人になっていることは皆無です)
しかしいっぽう、資力に乏しい中小企業は、監査法人などを入れるコストが捻出できないところが多い。零細企業や自営業にいたっては、監査法人どころか、税理士に決算書を作成してもらう費用さえも捻出できず、社長さん自身が慣れない会計ソフトを使って決算書を作成しているような会社も数多くあります。粉飾する気はなくても、これでは経営の実態を正確にあらわしている決算書など到底できないでしょうし、こんな決算書では、銀行も安心して貸せないでしょうから、やれ保証人だの、やれ保証協会の保証付きだの、やれ担保だのと言われても仕方ないと思います。
正論をいえば、中小企業も零細企業も、正しい財務諸表を作成し、それを監査法人のようなプロの第三者にチェックしてもらい、財務諸表の正確さを担保したうえで、保証人不要で融資を受けるのが、本来あるべき姿なのでしょう。
しかし残念ながら、そのような正論を実行できる会社は、中小、零細になればなるほど、少ない。ただでさえ人件費率の上昇や原材料費の高騰にあえぎ、社会保険加入の義務も強化され、「会社の維持費」を支えきれなくなっている会社が多いのです。接待費・交際費など使う余裕もなく、あらゆるコストを削減して、やっと従業員を食わしていけているような、ギリギリ、カツカツの会社のほうが・・・。
よって、あまり選択肢を狭めると、ますます廃業する会社が増え、新たに起業しようという人が減り、日本経済は底辺から崩れていく恐れがあるかもしれません。
話は個人保証・連帯保証の話に戻りますが、そのようなわけで、私は、「ただの個人保証(責任の範囲が限定されている)」は特に撤廃の必要なし、今回報道されたような内容でOKだと思いますが、ぜひともこれに加えて、「連帯」の部分を改正して欲しかったと思います。
長くなりました。このへんで。
猫
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* 記事全文は、産経新聞の2014年8月28朝刊、またはインターネットの産経ニュース(URL下記)をお読み下さい。
→ http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140828/plc14082803190007-n1.htm
つづく
猫